【直流ワールドへようこそ!】第3回 DIYでも出来る?!直流ワールド

日本をリードする直流給電による研究開発プロジェクトを進めてこられた田路先生に、電気とエコ、私たちが暮らしの中で出来ることについて教わります。

第3回では、田路先生のお部屋を訪ね、進化し続ける直流ワールドを見せて頂きます。
DIYでつくられた直流ワールドには直流化のヒントが詰まっています。

まずは、電気をつくる部分から。

太陽光パネル

ベランダには京セラ製の太陽電池モジュール10枚で構成された太陽光パネルが設置されています。
太陽電池モジュール1枚の裏面を見てみると・・・

公称最大出力電圧5.9Vとあります。
10枚直列に繋ぐと5.9V×10→電圧は59V

 

蓄電池

直流ワールドでは、蓄電池の性能が全体の性能や使いやすさの決め手となる、と田路先生は言います。

▲黒い箱3台がリチウムイオン2次電池の蓄電システム(ソニー製)
上1台はコントローラー
下2台がそれぞれ1.2kWhの蓄電池
2台を並列に繋ぐと1.2kWh×2→蓄電容量は2.4kWh
出力電圧は蓄電容量に応じて約45~54V程度まで変化します。

田路先生:
「蓄電池の仕様は、メーカーによって異なるのでよく確認した方がいい。例えば、入出力レートの違いによって出来ることが変わってくる。入出力レートは蓄電池に貯まった電気を出したり入れたりする時のスピードのことで、この蓄電池の場合、1.2kWで充電するので、最短1時間で満充電でき(これを入力レート1Cといいます)、2.4kWで放電するので30分で完全放電できる(これを出力レート2Cといいます)。このレートが高いほど、たくさんの電気を取り扱うことができ、この蓄電池だと 電子レンジ、オーブントースター、冷蔵庫、IHヒーターも使うことができる。」

また、この蓄電池には、コンピュータが内蔵されていて、過充電や過放電などが管理され、異常があれば利用を止めるように出来ていたり、保護回路が電池を守っているので安全性が高かったりと、とても賢い蓄電池とも言えます。

次に、太陽光パネルと蓄電池を繋ぎます。

接続箱

見かけは一般家庭にある分電盤に似ていますが・・・

接続箱は、一般的には、太陽光パネルで発電した直流の電気を一つにまとめ、パワーコンディショナ(※1)に供給するために使われますが、こちらの「直流ワールド」では、パワーコンディショナではなく、蓄電池に繋いであります。

※1パワーコンディショナ:一般家庭などにおいて、太陽光発電などでつくられた直流の電気を、交流に変換し、コンセントから使えるようにするための変換機器。

電源装置

天気が悪い日が続いて蓄電池が空になった時のために電源装置も繋いであります。
電源装置があれば系統(交流)から直流をつくることが出来ます。

▲電源装置:この時は負荷電圧52.9V と表示されていました。

田路先生によると、電気は電圧の高い方から低い方に流れるので、その性質を利用して、電圧値を、太陽光パネル>蓄電池>電源装置(系統)、の順に設定すれば、太陽光発電した電気を優先的に消費する、ということが複雑なシステムを構築しなくても出来る、のだそうです。


▲直流の電気を水に例えたイメージ図(上:晴れている時、下:曇っている時)

電気は水に例えるとわかりやすいです。
太陽光パネル、蓄電池、電源装置をそれぞれ水がめに置き換えて、それぞれの電圧値を水位と考えます。
晴れている時は、太陽光パネルからの電気が蓄電池に流れます。
この時、電源装置からは流れません。
太陽の光が雲にさえぎられて発電しなくなり蓄電池の残量が少なくなったら、電源装置からの電気が蓄電池に流れます。
そして、蓄電池から直流稼働のテレビや照明などの負荷に供給されます。

ただし、このように水と同じように考えられて、DIYで簡単に繋ぐことができるのは、直流の場合だけ。
交流は50Hz(関東)、60Hz(関西)という周波数を厳密にあわせる必要があるため、このように簡単には連結できないのです。

エコな電力システムというのは、システムだけで完結するものではなく、また、売電ありきでもなく、地産地消して足りない分だけ系統の電気を使う(電力会社から買う)、といった私たち使う側の発想の転換も大事だと言えそうです。

▲直流稼働の液晶テレビ:電源プラグの差し込み口にはDC IN 12Vという表示

さて、直流ワールドで液晶テレビに直流給電するにはどうするのでしょう。
まず、安定な電圧を供給するためにDC-DCコンバータを準備して、電圧を12Vに調整します。
交流は100Vに統一されていますが、直流は5Vだったり12Vだったり、使われる電圧がいくつかあるそうです。
次に、差し込み口の形を確認し、その差し込み口に入る電源プラグをつくります。
ただ、この差し込み口の形はメーカーによってバラバラなのだとか…

▲電子工作に使われる部品や道具:電子工作の部品は数十円から売られていて、様々な大きさや形のプラグがあります。

エコ活動は、ひとりでやったところで地球全体で考えればちっぽけですが、チリも積もれば!です。

いきなり1kW規模の直流ワールドをDIYしなくても、まずは直流を意識すること、直流にこだわること、直流と交流の変換ロスの視点を持つこと、エネルギーの地産地消について考えることは、照明のスイッチをこまめに消すことと同じように、今すぐ私たちの暮らしの中で出来ることではないでしょうか。

太陽光発電や蓄電池、電力自由化による新サービスなど、私たちをとりまく電気のかたちが変わりつつある今、判断材料として広がってゆけばと思います。

(つづく)

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+++++  Profile  +++++

田路和幸(とうじ かずゆき)

理学博士/東北大学大学院環境科学研究科教授(2010年度から4年間、研究科長)/NPO法人環境エネルギー技術研究所 理事長

ナノ素材とそのエネルギーデバイスへの応用に関する研究により2008年に文部科学大臣表彰 科学技術賞

「微弱エネルギー蓄電型エコハウスに関する省エネ技術開発(環境省)」「スマートビルDC/ACハイブリッド制御システム開発・実証(経済産業省)」「東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト(文部科学省)」などエネルギー関連の研究開発プロジェクトのリーダーを務める。

▽こちらの本にも田路先生が直流ワールドについて書いておられます!